厚生労働省は 11 月 28 日、持ち分ありから持ち分なし医療法人への移行計画の認定制度の期限を、現在の 2026 年 12 月 31 日から 3 年間延長する案を社会保障審議会の医療部会に示し、了承された。
厚労省は、税制の優遇措置の延長を 26 年度の税制改正要望事項に盛り込む方針。医療法人の「非営利性」を徹底させるため、持ち分あり医療法人は 07 年度以降、新規に設立できなくなった。
認定医療法人制度は、従来の持ち分あり医療法人の持ち分なしへの移行を促すため、14 年の医療法改正で創設された。
医療法人が作った持ち分なしへの移行計画が「妥当」と厚労相が認定した場合、出資者の持ち分放棄に伴う「みなし贈与税」を非課税にするなど税制面で優遇する。
医療法人は計画が認定されてから 5 年以内に持ち分なしへ移行する必要がある。
厚労省によると、06 年度末で全国の 4 万 4,027 の医療法人の 98.1%が持ち分ありだった。これに対し、23 年度末の時点では医療法人全体(5 万 8,902)に占める持ち分ありの割合は 61.8%に下がり、同省では「移行は着実に進んでいる」とみている。
ただ、持ち分ありの医療法人はいまだに多いとして、移行をさらに促す方針を示した。
厚労省はまた、社団法人や一般社団法人が運営する医療機関の非営利性を徹底させる方針を示した。医療法人と同程度の確認を可能にするため、関係省令を改正し、剰余金の配当禁止を定款に明記しているかなどの届け出を医療機関の開設時などに求める。
また、非営利性を確認する際のポイントを自治体などに通知する。
厚労省によると社団法人・一般社団法人が運営する医療機関は 23 年で、病院が 82、医科診療所が 780 ある。
医療機関の開設に際して非営利性を確認するための基準を定めているのは 9 都県の一部の自治体のみだった。都道府県からは「業務に制限がないため診療所経営に支障が生じ、医療提供の質が低下する」などと指摘されていた。
厚生労働省は、医療需要の変化を踏まえた医療機関への支援に 2024 年度補正予算案で計428 億円を盛り込んだ。医療需要の急激な変化に対応するため病床削減を進める医療機関に経費相当分の給付金を支給する。交付額は、病院(一般・療養・精神)・有床診療所のいずれも1 床当たり 410 万 4,000 円で、国が全額を支給する。
また、物価高騰などで施設整備が困難な医療機関も支援する。国庫補助事業の交付対象になる整備計画を進めている医療機関に、施設整備に必要な給付金を支給する。
厚労省は、足元の経営状況の急変に直面する医療機関への財政支援を行うことで連携・再編・集約化を加速させるとしている。
病床削減への支援では、医療機関が都道府県に交付申請書を提出する際に削減数を申請する。都道府県は、申請内容が「適当」だと認めれば国に所要額を交付申請し、国が都道府県の実績報告を踏まえて交付額を確定させる。
●産科・小児科医療確保事業に計55億円
厚労省はまた、産科・小児科医療確保事業の予算に計 55 億円を盛り込んだ。周産期や小児医療の提供体制を地域に確保するため、出生数の減少や少子化の影響を受ける施設を支援する。
産科医療確保事業では、分娩数が急激に減少している分娩取り扱い施設や、集約化が困難な地域の施設、地域の分娩取り扱い施設を支援するため妊婦健診や外来診療、産後健診などを行う施設のコストを支援する。
一方、小児科医療の確保事業では、患者が急減して運営に影響が及んでいる小児医療の拠点施設のコストを支援する。
●介護職員一人につき約5.4万円支給
厚労省は、介護分野のさらなる賃上げを支援するため 2024 年度の補正予算案で 806 億円を盛り込んだ。生産性を向上して業務効率化や職場環境の改善を図り、人材確保・定着に向けた基盤を構築する介護施設や事業所に対し、常勤職員 1 人当たり 5.4 万円相当の一時金を支払えるよう補助金を支給する。介護現場での生産性向上や職場環境の改善を図り、職員の確保・定着や介護サービスの質の向上につなげる狙いがある。
補助の対象となるのは、6 月に一本化された「介護職員等処遇改善加算」を取得している施設や事業所。支給の要件として、介護職員らの業務の洗い出しや、棚卸しとその業務効率化など改善方策の立案を行う必要がある。また、人材確保や職場環境改善の計画書と実績報告書を都道府県に提出する。
支給された補助金は、常勤の職員への一時金の支給に充てるのが基本だが、介護助手の募集などの経費や、ほかの事業所を含む介護職員の人件費などに充てることもできる。
●テクノロジーの導入や協働化への支援事業に200億円
厚労省はまた、介護現場でのテクノロジーの導入や協働化への支援事業に 200 億円を計上した。職場環境を改善させるため ICT 機器の本体やソフトなどを導入・更新する施設と事業所のコストのほか、複数の事業所が地域全体で行う導入のコストを補助する。
小規模の事業者を含む事業者グループが協働して行う経営や職場環境の改善への補助も行う。
厚生労働省は、医療法人に義務付けられている事業報告書や経営情報の年度ごとの届け出について、2025 年度以降は福祉医療機構が構築する新たな報告システムに移行することを都道府県に事務連絡を出して伝えた。
新たなシステムの利用には年度内の申請が必要で、同省では早めの申請を呼び掛けている。
利用申請は、福祉医療機構のウェブサイトの法人情報登録フォームで行う。
25 年 2 月 28 日までに利用申請すると新システムの法人 ID が年度内に発行される。
その後、パスワードの設定などを済ませれば 4 月以降にログインできるようになる。3 月中に利用申請した場合は 4 月以降に法人 ID を発行する。
現在の医療機関等情報支援システム「G-MIS」の法人 ID は新システムに引き継がれるが、年度内に改めて利用申請する必要がある。
医療法人の経営状況を「見える化」するため 23 年 8 月に施行された制度では、医療法人や地域医療連携推進法人に対し、会計年度が終了してから原則 3 カ月以内に事業報告書や経営情報などを都道府県に届け出ることを求めている。
現在は「G-MIS」で届け出を行っているが、25 年度以降は福祉医療機構が総合情報提供サイト「WAMNET」上に立ち上げる新システムに移行する。厚労省が都道府県に 11 月 29 日付で事務連絡を出して周知を呼び掛けた。
医療法人や都道府県の負担軽減につなげたり、データ収集と分析を一元的に行えるようにしたりするのが狙いで、新システムで届け出を行うと、翌年度以降は前年度の入力内容を利用できる。
また、入力ミスや必須項目の入力漏れがないか数値に整合性が取れているかなど、入力内容のチェック機能も導入する。
厚労省によると、医療法人がこれまでに G-MIS で提出した事業報告書や経営情報などの電子データは、25 年 4 月以降閲覧も含めて利用できなくなるという。
資料出所:厚生労働省医政局 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001344942.pdf
労災の認定判断ポイント
Q.職員がパソコン入力業務で腱鞘炎になり、労災申請を希望していますが、私生活でもパソコンを使用しています。労災に該当する判断ポイントを教えてください。
労災認定の判断は、貴院ではなく行政官庁(労働基準監督署)が行うものです。膨大な量のデータ入力等をパソコンで操作している事務職員の中には、これによって肘に強い痛みなどの症状が出て、腱鞘炎という診断を受けるケースもあります。
医療機関の事務作業場においては、労災として認定される傷病が発生するのは想像しにくいかもしれませんが、職員が労災申請を希望する場合は、貴院としては、傷病に至るまでの経過と事実関係を可能な限り証明してあげることが望ましいでしょう。
■労災認定のポイント~業務災害に該当するケース
労災保険では、業務災害及び通勤災害を保護の対象としており、このうち業務災害とは、労働関係から生じた災害、すなわち労働者が労働契約に基づいて使用者の支配下において労働を提供する過程で、業務に起因して発生した災害をいいます。
「業務遂行性」とは、労働者が使用者の支配下にある状態をいい、業務に起因することを「業務起因性」といいます。業務遂行性がなければ業務起因性も成立しない一方で、業務遂行性があれば必ず業務起因性があるとは限りません。
(1)業務遂行性
事業主の支配下で被災した傷病であるかどうか
(=院長又は上司指示業務か否か)
(2)業務起因性
業務に起因して災害が発生し、これが原因となって傷病等が発生したという相当因果関係があるかどうか(=自院で定められた業務が原因になっているか否か)
①労働の場(=院内・関連施設等)に有害因子が存在していること
②健康障害を起こしうるほどの有害因子にばく露していたこと
③発症の経過および病態
なお、労災の申請が却下された場合には不服申立(審査請求)を行うことができます。また、審査(一審)の決定に不服があるときには、不服申立(再審査請求)を行うことができます。
さらに、再審査(二審)の裁決に不服があるときには、裁判所に対して不服申立(訴訟)を行うことができます。いずれも申立期間が限られていますから、期限に対する注意が必要です。
入職前研修中の怪我の労災
Q.採用内定者全員を対象に、入職前研修を行いたいのですが、仮に、この研修中に採用内定者が怪我をした場合、労災扱いとなるのでしょうか?
内定者の入職前研修中の事故が労災となるか否かについては、まず研修参加者に労働者性があるかどうかが問題となりますが、労働者性があるかどうかは下記2点を検討し、判断されます
①労務の提供がなされているかどうか
②労務の提供に対する報酬が支払われているかどうか
当該研修が業務知識を身につけさせることを目的としたものであること、また、参加が義務づけられていることからみると、研修中労務の提供がなされており、賃金の支払いが必要と考えられます。
したがって、当該研修への参加者には労働者性があると解されます。
次に、労災保険が適用されるためには、第2の要件として下記2点を満たすことが必要です。
①労働者が災害発生時に使用者の指揮監督下におかれていること(業務遂行性)
②研修と災害との間に相当の因果関係があること(業務起因性)
例えば、研修終了後の自由時間に事故に遭った場合は、業務遂行性、業務起因性ともに認められませんが、担当者に従って院内を見学中に階段を踏み外したり、実際に簡単な機器の操作をしているときに、誤って手を負傷してしまったりした場合などは、この2つの要件を満たすものと考えられます。
したがって、当該研修中に発生した事故に、業務遂行性と業務起因性の両方が認められれば、労災保険から給付を受けることができるでしょう。
なお、上記のような研修への参加の往復の時間は通勤に準じたものと考えられますので、その途上で災害に遭った場合には、指定された経路を途中で逸脱していない限り、通勤災害として扱われることになります。
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